67回グラミー賞2025は、NARASが変わった日になったのか?

67回グラミー賞2025は、NARASが変わった日になったのか?
吉岡正晴 2025.02.05
誰でも

【67th Grammy : Is The Day NARAS Changed?】

サプライズ。

今年のグラミー賞授賞式で何がびっくりしたかといえば、ラッパーのケンドリック・ラマ―が主要部門で2部門(「ソング」「レコード」)を獲得したことだ。筆者は「レコード」部門の受賞は予想したが、「ソング」まで取れるとは思わなかった。それに加えて、嬉しい受賞としてビヨンセの6回目の正直とも言える「アルバム」部門の受賞と「新人賞」にクイア・LGBT+のチャペル・ローンが入ったこと。(とはいえ、個人的にはそれら3部門は「予想通り」だったのだが。)

さらに、驚いたのが、ライヴ・パフォーマンスに2021年グラミーの体質を批判してグラミーをボイコットし犬猿の仲になっていたウィークエンドが登場したこと。その前にNARAS(グラミー賞を選出する『全米レコーディング芸術と科学のアカデミー』)の会長は、「これまでのグラミーの過ちを認め、是正する」(大意)と発言しての、ウィークエンドの登場だった。この3分弱のスピーチは、毎回、CMタイムと言われたこれまでの会長スピーチの中で一番よかったのではないか。

フル・スピーチ 

Recording Academy CEO Harvey Mason jr. Deliver His Speech At The 2025 GRAMMYs(約2分55秒)

ウィークエンド動画一部

The Weeknd Breaks Grammys BOYCOTT With Surprise Performance | Grammys 2025 | E! News

https://www.youtube.com/watch?v=hocLTEQab34

グラミーの受賞者(勝者)は、さすがに表向き上、恣意的にはできないとは思うが、主要4部門でブラックが3枠、クイアが1枠を取るというのは、なかなか快挙のように思える。

ただ結果として、こういう並びになったこと、またレディー・ガガがトランスジェンダーの権利についてパワフルなスピーチをして拍手喝采を浴びたことは今年のグラミーの特徴を印象付けた。

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反トランプ。

これは、昨今のトランプ大統領の「DEIプログラム」(多様性、公平性、包括性の元、少数の差別されてきた人たちを許容しようという運動)の廃止宣言に真っ向から異議を唱えるものとも見えた。

ビヨンセのカントリー・アルバムでもある『カウボーイ・カーター』が、カントリー音楽の権威「カントリー・ミュージック・アワード(CMA)」からノミネートすらされずに無視されたことに対抗するように、グラミーの「ベスト・カントリー・アルバム」賞を受賞したことは、一見、旧態依然の保守派であるCMAと比べて、グラミーがリベラルであることを如実に表した、ひとつのグラミーなりの宣言とも受け取れる。それは、ビヨンセの同アルバムを主要部門である『アルバム・オブ・ジ・イヤー』に選出したことにも表れている。

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反骨。

同作は数年前(2016年)のカントリー・ミュージック・アワード(CMA)・ショーで、ビヨンセ本人が聴衆・会員からブーイングを浴びたことに心が傷つき、逆に自身のルーツのひとつでもある「カントリー・ミュージック」のもので再度挑戦してやろうという闘志を燃やして作り上げた作品だった。そして、今年のCMAではノミネートさえされなかったという屈辱ストーリーがあってのこの日なので、本人にとっても感慨ひとしおだっただろう。

その昔、絶対自信作だった『オフ・ザ・ウォール』がグラミーからほぼ無視されたことにマイケル・ジャクソンが怒り、やる気を爆発させ作りあげたものが『スリラー』で、それが史上もっとも売れたアルバムとなり、グラミーでも多数を受賞してリヴェンジを果たしたことを彷彿とさせた。

ラッパーのケンドリック・ラマ―の主要部門2部門受賞も、「ピューリッツァー賞」に先んじられてしまったものの、グラミーも遅ればせながら「お墨付き」を与えた、という意味では意義深い。

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スピーチ。

いずれも、「グラミーも変わってきた」ということを如実に表した感がする。

それは、賞の途中でのNARAS会長、ハーヴィー・メイソン・ジュニアの3分弱のスピーチ(コメント)に端的に表れていた。

このスピーチによれば、彼が会長に就任した2020年以来、3000人の女性メンバーが増え、40%のメンバーが有色人種になり、現時点で66%が新メンバーになって、1万3千人の構成になっているという。

さらに、2021年、ウィークエンドのグラミー/NARASへの批判とグラミー・ボイコットを受け、それを改めるというこのスピーチで、ウィークエンドが紹介され、彼のライヴ・パフォーマンスに突入した。

今年のグラミーは、そういう意味で、保守ガチガチでわがままやりたい放題のトランプとその一派の対極のリベラル・変革のNARAS(グラミー)という対立軸も、図らずも現したことになる。来年以降のNARAS、グラミーが楽しみになってきた。スピーチの中で、ハーヴィーが語った「透明性」という点では、グラミーの主要部門だけでも、各投票数(あるいは、投票率)なども明らかにしてほしいところだ。

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プロモーション。

Cry For Me Weeknd

ウィークエンドは、去る1月31日に新作『ハリー・アップ・トゥモロウ』を出したので、おそらく、新作発売とグラミー出演(2月2日)は事前に話がついていたのだろう。ウィークエンドにしても、なかなかにしたたかである。(笑) ただでは起きない。

アルバム全曲、スポティファイ

Weeknd / Hurry Up Tomorrow

余談だが、「ただでは起きない」を英語で何というのかと思って調べたら、こんなのがでてきた。

When life gives you lemons, make lemonade.

レモンを与えられたら(試練を与えられたら)、(甘酸っぱい)レモネードを作れ

Turn anything into profit

何でも、利益に結びつけろ

こんどの場合、後者の感じが近いかな。

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レモネード。

ビヨンセのグラミーにおける「アルバム・オブ・ジ・イヤー」は6度目の正直でついに獲得する。2010年『アイ・アム…サシャ・フィアース』、2011年『ザ・フェイム・モンスター』(フィーチャード・アーティストとして)、2015年『ビヨンセ』まで、ビヨンセは他にも主要部門では取れなかった。

上の格言「レモン(試練)を与えられたら、レモネードを作れ」の通り、作った次作は『レモネード』。これで2017年、「アルバム・オブ・ジ・イヤー」にノミネートされるも、獲得ならず。2023年『ルネッサンス』も手が届かず、満を持しての2025年、『カウボーイ・カーター』でついに獲得した。これで、グラミーはノミネート数99で、受賞数を35に伸ばし、音楽業界史上、ポップもクラシックもすべて含めて、最高数、ナンバーワンになっている。

2025年のグラミーは、変わり始めたグラミー(NARAS)の元年になるか。

ENT>AWARD>GRAMMY>67

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